*学パロ






「ぉ、わッ!」
「、痛ッ…てェ」

クン、と何かに引っ張られるような感覚を覚えた直後に二人の声が響いた。アリババは自身の持つ鞄に目を向け、ファスナー部分に絡まる髪の毛にあちゃーとため息を吐く。

「悪いジュダル、ちょっと待って」

いつもの帰り道、学校であったことをああだこうだと話す変わらない日常の風景。途中上がった話題に気持ちが盛り上がってきてジュダルに後ろから突進した。「痛ぇな」「良いじゃん」怒りのポーズをとりつつも許してくれるジュダルにアリババは嬉しくなる。接触を持っても嫌がられなくなった事は、実は出会った当初から考えればかなりの進歩で。周囲には関わるなとか色々止められたが、やっぱり友だちになれて本当に良かった。馬鹿みたいな話でジュダルと笑い合える日常がこの上なく楽しくて。恐らく先ほど突進した時に引っ掛かったのであろう髪の毛を解きつつアリババはそんな思考に沈んでいた。

「またかよ」

不機嫌そうに零すジュダルは一昨日も誰かの服のボタンに髪が絡まったらしく、その時の事を思い出したのか機嫌が急降下している。

「…いっそ切るか」
「えっ!?」

ぽつ、と落とされた言葉にアリババが大袈裟なまでに体を跳ね上げた。大きな声と共に心底驚いたような顔をするアリババにジュダルが呆れたように口を開く。

「五月蝿ぇな…んな驚くことかよ」
「だって勿体ないだろ!」
「ハァー?女子でもねーのに勿体ないも何もないだろ」

馬鹿じゃねーのと半眼になるジュダルにでも、やっぱり、とウダウダし始めるアリババ。

「こんなとこでも貧乏性なのかよ」
「なっ、貧乏性言うな!」
「朝は忙しいから結ぶのも面倒だしよ」
「いやいや今更だろ」

それにしても遅刻魔のくせによく言う。午後から来たり来てもサボったり、そんな学校生活を送るジュダルが朝が忙しいなんて初耳だ。寝るのに忙しいんじゃないのかと思ったが口にはしない。口にした瞬間蹴られること間違いないからだ。

(…やっぱり勿体ないよなぁ)
改めてチラリと漆黒の長く綺麗な髪の毛を眺める。これを切ってしまうなんて…アリババはやはりとても惜しいと感じてしまう。短い髪も顔の良いジュダルには似合うだろうし、当人の自由だと言われてしまえばそれまでだ。けれど結った長い髪を揺らしつつ堂々と我が道を行くジュダルを見慣れてしまった身としては、もうその姿が見られないのは少し寂しい。

「それだけ伸ばすのにどれ位掛かったんだ?」
「あ?知らねーよ。生まれた時からじゃねーの」

揃える位はするがずっと伸ばしっぱなしに近いという。

「だったらやっぱり切るの勿体ないだろ」

それだけの年月を掛け、ジュダルの生きてきた世界を知っている髪。ジッと髪に視線を注ぐアリババにジュダルは静かに息を吐いた。

「そこまで言うんならお前明日から朝家に来い」
「…は?」
「お前が代わりに髪やってメシ作るんなら切らないでやるよ」  

待て待て待てどこからどうきてそうなった。ポカンとするアリババに、お前の我が儘に付き合ってやってんだろーがとジュダルが眉間に皺を寄せる。

「ついでに掃除もしろ」
「お前は俺をなんだと思ってるんだよ」
「下僕」
「えっ、友だちだろ!?」 
「友だちならやるのかよ」
「…それはえーっと別の話っていうか」

困ったように口ごもるアリババ。それに対して本当にお前馬鹿だなと言うジュダルに、アリババは相変わらず何という暴君だと疲れたようにうなだれる。

「んで、どうする?アリババクン」
「っ、」

うぐぐと言葉に詰まるアリババに人の悪い笑みを浮かべるジュダル。…アリババはジュダルに名前を呼ばれると弱い。それというのもジュダルがアリババの名前を真面目に呼ぶことがほとんど無いためだ。あだ名だったり(いや呼ぶ本人が好き勝手に命名しているだけだが)おい、とかお前っていうのが一番多いか。興味の無い人間とはそもそも言葉すら交わさないジュダルを見るならそれでも随分マシだといえるが。実はこっそり名前を呼ばれた回数を数えていたりするアリババ。目標は目指せ百回だ。それが叶えられる頃にはどうなっているんだろうかとぼんやり考えるが未来のことだ…とりあえず大人になってもこうして馬鹿みたいなやり取りが出来れば良い。

「し、しょうがねぇな…心の広い俺に感謝し、」
「あ、メシの材料ねーから買ってこいよ。あと野菜入れんな入れたら殺す」
「聞けよ!…材料費は後でしっかり徴収するからな」
「あーあーはいはい。一々細けーな」

答えなど初めから分かっていたかのように振る舞うジュダルにアリババは悔しさが湧き上がる。また負けたと似たようなことを繰り返してきた日々が思い返され、いつまで経っても敵わない友人に対しもっと頑張ろうと気持ちを新たにする。よし、と拳を固め頷くアリババを横目に見ながらジュダルはまた馬鹿なヤツだとそっと口角を上げた。